キャリアプラン

原⽥ 真 先生-留学体験記

名前: 原⽥ 真 Makoto Harada
留学タイミング:卒後14年⽬、学位取得6年後
留学先:Institute of Translational Genomics, Helmholtz Munich(ドイツ)への研究留学
留学中の研究テーマ:Multi-Omics データを⽤いた糖尿病薬物療法に伴う全⾝臓器の代謝性変化の検討

―留学を希望するまで、なぜ留学を望んだか

私は信州⼤学を2008年に卒業し初期臨床研修後、信州⼤学の腎臓内科に⼊局しました。
腎臓を⼊り⼝として知識経験を増やし様々な患者さんの全⾝管理をできるようになりたいという理由でした。基本的には臨床に興味があったものの、基礎研究も経験してみたかったのと、この頃から漠然と外国で暮らしたい、という希望もあり、当時はそのためには基礎研究のスキルと博⼠号がないといけないのかな、と思っていたので卒後4年⽬に⼤学院に進み、マウスを⽤いた基礎研究を始めました。研究を始めて⾒ると、病態⽣理の疑問に論理的にアプローチをしていくのが⾮常に興味深く、またとても奥深い世界であることを感じました。同じく⼩さな臨床研究をいくつかやっていく中でいつか、基礎研究→臨床研究へ結びつけられるような研究が海外でできればと考えるようになりました。

―留学先を決定するまで、どうやって決めたのか

私には海外留学した同じ科の先輩、そのほかのつながり、といったものがなかったため、⾃分⾃⾝が今までやってきた研究やスキルが⽣かせるような留学先を⼀から探すこととなりました。JASNやKIのAssociate editorのページをみて、その⼈物の研究内容をPubmed で論⽂引いてチェックしてみたり、漠然と住んでみたい国、都市にある研究室を調べてみたりしました。そんな中でたまたま2018年に学会でミュンヘンに来る機会があったため、その際に、ミュンヘンに研究室をどこか⾒学してみよう、と思いあるラボにメールして⾒学させて戴きました。その後奨学⾦を⾃分で獲得してくるのであれば受け⼊れOK、との返事をいただき、そのラボのサポートを受けつつ奨学⾦獲得及び準備をすすめました。しかしCOVID19のパンデミックにより渡航できなくなり、3年たったところでその施設での受け⼊れが困難となってしまいました。この時点で既に妻の留学先、⼦供⼆⼈の幼稚園も決まっていたためどうしたものかと途⽅に暮れましたが、再度ミュンヘン及び近郊の研究機関、その研究室をインターネットで⼀つ⼀つチェックし、糖尿病、CKD、CVDの発症進展をヒトのコホート研究データ、メタボロミクス等のOmicsデータを統合して解析している現在の研究室のボスにメールしたところZoomでの⾯談を経て受け⼊れてもらえることになりました。

―留学するまで、何が必要か、何を準備すべきか

私は⼀般的なキャリアとしては遅めの留学になったと思います。⼤学院を卒業して2-3年以内に留学する⽅が条件的に多くの奨学⾦に応募することができること、研究室を探す上で“年齢が若いこと”は有利なポイントの⼀つになると感じたため、⼤学院を卒業して早めに留学する⽅がいいのかなと感じます。しかしその⼀⽅で、奨学⾦だけで はとても外国では⽣活していけないというのも感じるところです。家族同伴であればなおさらです。もちろん留学先から給料を得られればよいのかもしれませんが、なかなかそういった環境の留学先を探すのは困難なことも多いと思います。したがって何らかの形でお⾦を貯めておくことが⾮常に重要だと思います。私は⼤学院卒業後、3 年間市中病院で働いて貯めたお⾦と奨学⾦で留学しています。残念ながら研究室から給料は出ていません。

最近今のラボにApplyしてくる外国のPhD studentを採⽤するかどうかのZoomのInterviewに参加することが多いのですが、そこで⾒られているのは
①CVにある業績
②⾃⾝の専⾨分野があるか、あとはうちのラボだけかもしれませんが、
③モチベーションと感謝をちゃんと伝えられるか、といった点です。
①はFirst authorの論⽂がどのくらいあって、どんな雑誌に通っているのかで、やはり他にApplicantの質を評価する客観的な指標がないので重要だと思います。従って可能な限り論⽂を書いた⽅がよいのと、その研究室のボスが⾃分の論⽂が載っている雑誌のことを知っていると⼼象がよさそうです(腎臓関連のラボに留学するなら当然腎臓系の学術雑誌は向こうもよく知っていますが、そうでないラボに留学する場合では腎臓の雑誌のことを知らなかったりします)。
②が結構重要で、どのInterviewでも⾃分のこれまでの研究をプレゼンすることになると思いますが、それをわかりやすく、しっかり⾃分がやったんだよ、とアピールし質疑応答にスムーズに答えられることが重要です。英会話は⼀朝⼀⼣では上達しませんが(私⾃⾝も⼀年たつ今もさっぱりです)、⾃分の研究プレゼンの英語を練習することは時間対効果としては効率的だと思いますのでやっておいた⽅がいいと思います。
③どうしてこの研究室に来たいか、をスムーズに向こうが納得できるように説明できるようにしておく必要があります。これは当たり前の対策なのかもしれませんが、⼀つ注意点があります。向こうが⽇本の医者のキャリアの積み⽅、⼀般的な流れをしらない可能性が結構⾼いということです。私の場合は⼤学院を出て、⼀般病院で働いて、そのあとなんでわざわざ研究しに外国にくるの?と⾮常に不思議がられました。ですので⽇本のことを知らない外国⼈でも納得するような説明を準備する必要があります。最後にInterviewの所々で“この機会を与えてくれてありがとう”、“わざわざ時間をとってくれてありがとう”、みたいな⽂⾔を⼊れることが⼤切だと思います。
これらの⾔葉が⼊ることで向こうのこちらを⾒る⽬が多少優しくなる(?)かもしれません。外国⼈というのはあまりそういったことは気にしない⼈たちで、ガンガン⾃分をアピールしていくほうがいいのかな、と思っていましたが必ずしもそんなことはなく、礼節は世界のどこに⾏っても重要なのだなあと感じます。メールでやりとりする時も配慮するとよいと思います。

これは余談ですが、ここドイツではラボ探し、ポジション探し、GrantやFellowshipへの応募で使うCV に⾃分の写真を載せる⼈が多い印象です。この写真が結構重要(?)なのかもしれません。CVに写真と聞いたら、⽇本⼈的には無表情な証明写真みたいなものがいいかな、と思ってしまうのですが、外国⼈たちは表情豊かなきれいな写真を載せてきます。確かに無表情の暗い雰囲気の写真より表情のよい明るい雰囲気の写真が載っていると⼼象がよいようです。プロにとってもらって表情のよい写真を載せるとよいことがあるかもしれません。

最後に、どうしても留学先の設定に⽬を奪われてしまうのですが、留学に⾏く前までに⾃⾝や家族の健康に問題がないか(⻭や予防接種なども含め)可能な範囲でチェックしておくとよいように思います。

―留学してから

現在留学して1年になります。データを解析してまとめて⼀本⽬の論⽂をSubmitするところまで来ました。私の場合、既にあるヒトやマウスのデータベースの解析がメインなので、⾃分で実験してデータを出したり、データ収集をしたりといったことをせずに初めから解析を始められるところが⾮常にありがたいです。⽇本にいたときはマウス飼って実験してデータを出したり、臨床データを集めたり、研究デザインして対象集団を観察していたので、このスタンスにやや抵抗を感じました。しかし限られた留学期間で⾃分の調べたいことを解析して結果を出して論⽂化していくためには初めからデータベースがあるというのはありがたい限りです。また時間的融通が⽐較的利くので、⼦供の幼稚園の送り迎えや、⾵邪引いて幼稚園に預けられないときに家で⾯倒をみていることも可能であるため、夫婦ともに研究留学する場合はどちらかが解析系のラボへの留学だと⽣活しやすいかもしれません。

―留学後のキャリアパス・プラン

ゆっくり⼀つのことを調べ、勉強する時間ができるので、⾃分の研究したいことにしっかり向き合える時間が得られること、家族とともに過ごす時間が⼤幅に増えることが⼤きなメリットだと思います。正直⾔って留学後のキャリアはどうなるかわかりませんが、そういった将来のこともゆっくり考えることができる機会かなと思って現在研究しつついろいろな可能性、⽅向性を模索しています。

―留学に際して、腎臓領域の医師/腎臓学会会員でよかったこと

腎臓領域は全⾝臓器の変化と密接に関連しているとともに、腎臓⾃体が⾮常に多彩な機能をもつ臓器であるため、どのような分野の研究をする上でも腎臓から派⽣する現象の知識や腎疾患患者さんを治療した際の経験が役⽴つと思います。

留学して現在に⾄るまで、これまで全く知り合いではなかった他⼤学の腎臓内科の先⽣⽅に突然メールして相談させてもらったことが度々ありましたが、皆⾮常に親切で様々な相談にのってくださいました。とても感謝しています。

―海外留学を目指す先生方へのメッセージ

海外留学に⾄るまでどうしても様々な困難が⽣じると思います。しかしそんなときは家族、⽇本の所属機関のボス、先輩、同僚、受け⼊れ先のボス等とよく相談し、さらには同じような経験をしていそうな⽇本⼈留学者(全然知り合いではなくても)に連絡をとってみることをおすすめします。皆様が御⾃⾝、御家族にとって⼀番よい留学先にたどり着けることを願っております。