腎臓の病気について調べる

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4.急性腎障害と慢性腎臓病

  • 1.急性腎障害とは

急性腎障害とは、数時間~数日の間に急激に腎機能が低下する状態です。尿から老廃物を排泄できなくなり、さらに体内の水分量や塩分量など(体液)を調節することができなくなります。以前は急性腎不全と呼ばれていましたが、早期発見と国際的に共通にするとの観点から急性腎障害と呼ばれるようになりました。症状としては、尿量減少(尿量が減少しない場合もあります)、むくみ(浮腫)、食欲低下、全身倦怠感などが認められます。血液検査では、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cr)、カリウム(K)の高値を認めます。原因としては脱水や出血により腎臓への血流が低下すること(腎前性)、腎臓の炎症や尿細管細胞の障害などにより腎機能が低下すること(腎性)、尿路系の閉塞によるものがあります(腎後性)。対策としては、早急に原因を突き止め、その治療を行うとともに、透析治療などで体のバランスを整える必要があります。高齢者や慢性腎臓病の方は急性腎障害になりやすいことが報告されています。救急医療を必要とする重篤な場合もあります。腎機能の回復は、原疾患や合併症の状況によって異なり、慢性腎臓病や末期腎不全に移行する場合も多くありますので注意が必要です。

  • 2.慢性腎臓病とは

慢性腎臓病とは、「腎臓の障害」もしくは「腎機能低下」が3か月以上持続している状態の総称です。「腎臓の障害」とは「蛋白尿」や「腎形態異常」を指し、「腎機能低下」とは「糸球体濾過量 60ml/min/1.73㎡未満」を指します。
日本の慢性腎臓病罹患率は成人全体で8人に1人ですが、80歳台では2人に1人と高齢になるに従って高くなります。慢性腎臓病では蛋白尿が多い程、あるいは糸球体濾過量が低い程、透析を要する「末期腎不全」や死亡や生活の質の低下に関連する「心血管イベント」の「リスク」が上昇することが知られています。慢性腎臓病は、糖尿病、高血圧、喫煙、高尿酸血症など生活習慣と関連しており、その発症進展予防には食事管理、適度な運動、禁煙といった生活習慣の是正が大切です。さらに、早期発見し早期治療すれば寛解する場合があります。特に初期の糖尿病性腎症にみられる微量アルブミン尿は、レニンアンジオテンシン系阻害薬を用いた降圧コントロールや厳格な血糖コントロールによって消失することがあります。

  • 3.生活習慣病と腎臓病との関係

高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満などの生活習慣病は、心臓病・脳血管障害(脳卒中)・足壊疽などの全身の血管に関連する病気(心血管病)に深く関与しています。腎臓には心臓から送り出される血液の1/5が流れ込みます。このため腎臓は非常に血管に富んでおり、血液をろ過するための糸球体や、身体に必要な水分や塩分の微調整および老廃物の排泄・再吸収を担っている腎尿細管の周囲にも豊富な血管ネットワークが構築されています。生活習慣病による血管障害は腎臓にも悪影響を及ぼし、透析療法を必要とする末期腎不全の原因として近年増加しています。更に腎臓病が進行すると心血管病を増悪させるなどの悪循環に陥ることもよく知られています。生活習慣病による腎臓病は、原因となる高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満などを早期から治療することにより、その進行を抑える事ができます。食べ過ぎ・飲み過ぎ・運動不足・ストレス・喫煙などの生活習慣の改善および生活習慣病の適切な治療は心血管病だけでなく腎臓病進行抑制にも非常に重要です。

  • 4.高血圧と腎障害

腎臓と血圧は密接な関係があり、腎臓の機能のひとつに血圧の調節があります。腎臓は、体内に摂取された食塩と水分の排出量の調節を行い、血圧に作用するホルモン系の調節も行うことにより、血圧を正常範囲内に維持する機能があります。しかし、腎障害があると、これら調節機能が障害されるため高血圧になりやすくなり、逆に高血圧自体が腎臓に負担をかけて腎障害を引き起こすという悪循環に陥ります。そのため正常な腎機能の方でも高血圧を適切に治療しなければ慢性腎臓病となり、自覚症状が乏しいまま腎障害が進行する危険性があります(この状態を腎硬化症と呼び、現在では末期腎不全に至る原因として2番目に多いとされています)。腎障害を有する方は、塩分の過剰摂取が血圧上昇の誘因となりますので、1日6g未満の食塩制限を目指す必要があります。さらに、診察室血圧は正常にもかかわらず家庭血圧が高いタイプの高血圧である「仮面高血圧」は、腎障害の方に多いとされ注意が必要です。仮面高血圧でも腎障害が進みやすく心筋梗塞や脳卒中などの心血管病が起こる危険性も高まります。そのため特に朝の家庭血圧をきちんと測ることが大切です。

  • 5.糖尿病と腎障害

腎臓の働きが低下し透析治療を必要とされる患者さんのうち、糖尿病による腎臓病を原因とする方が40%以上と最も頻度が高く、1年間に約1万6千人が糖尿病のため透析治療を開始されています。糖尿病は、慢性腎臓病だけではなく脳卒中や心臓病の原因にもなります。また、慢性腎臓病も脳卒中や心臓病の原因になるため、糖尿病によって腎臓が悪くなると、透析のリスクが増加するだけでなく、死亡、脳卒中、心疾患など様々な疾患のリスクが非常に高くなります。糖尿病による腎臓病を防ぐためには、まず糖尿病の予防が第一です。特に、糖尿病の危険因子(血縁者に糖尿病の方がいる・肥満・運動不足・喫煙習慣・過量の飲酒・高血圧など)がある方は、生活習慣を改めるとともに、必ず健康診断を受け早期発見に努めてください。糖尿病で治療中の方は、体重、血糖、血圧、コレステロール管理などをしっかりコントロールすることが大切です。腎臓の病気は、早期に発見して治療を行えば、進行を遅らせることができるだけでなく、病気が治まる(寛解といいます)ことが知られています。糖尿病・慢性腎臓病はいずれも、「予防」と「早期発見・早期治療」が重要で、かつ「症状が出にくい」病気です。定期的に健診・検査を受けるとともに、異常があればすぐにかかりつけ医に相談し、しっかり治療をするようにしてください。

  • 6.高尿酸血症と腎障害

健康診断などで指摘されることが多い高尿酸血症は、痛風や腎結石症の原因ですが、脳や心臓の血管障害、動脈硬化、腎障害を引き起こす生活習慣病の一つと考えられています。血清尿酸値が7.0mg/dLを超えると高尿酸血症とされますが、現在、高尿酸血症は成人男性の20~30パーセント、女性にも数パーセントで認められています。高尿酸血症の患者さんは1000万人を超えるとされますが、痛風患者さんは90万人程度と大きなへだたりがあり、症状のない無症候性高尿酸血症の方が多いのが特徴です。食事の欧米化、美食ブーム、飲酒量の増加、動物性たんぱく質の過剰摂取などが患者数増加に大きく関与しています。尿酸は摂取食物中のプリン体より作られ、腎臓より尿中に排せつされるので、ビールなどアルコールの摂取を減らしたり、プリン体を多く含む肉類などを控えたりする食習慣を身に付けることが重要です。
腎臓病、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、メタボリック症候群との合併も多いので、症状(痛風発作が代表例です)がないからと安心せず、まずはかかりつけ医にご相談されることをお勧めします。

  • 7.尿細管間質性腎炎

腎臓は、「糸球体」と、糸球体でろ過された原尿から栄養素や塩分を再吸収する「尿細管」から構成されていますが、その尿細管を取り巻いているところを「間質」とよびます。一般に腎炎と言われた場合は「糸球体腎炎」を指すことが多いですが、尿細管や間質に炎症が起こることを尿細管間質性腎炎と呼びます。
診断には、腎生検 (腎臓の一部を針で採取し顕微鏡で観察する) が必要で、尿細管や間質に多くの炎症細胞が認められます。この炎症が持続すると、間質の線維成分が増加し、元に戻らなくなります。ガリウムシンチという核医学検査を用いて診断することもあります。
原因は様々であり、薬剤性 (抗生物質や解熱鎮痛薬や抗がん剤など) の頻度が最も高く、それ以外に感染症、自己免疫性、腎移植後の拒絶反応、IgG4関連腎臓病などがあります。
急性の尿細管間質性腎炎の場合は背部痛を伴うこともありますが、多くの場合は無症状で、血液検査で腎機能低下として発見されます。尿中α1マイクログロブリン、尿中β2ミクログロブリン、尿中NAGの上昇は診断の手がかりになります。
治療は原因の除去が重要ですが、それのみで改善が乏しく急性の場合は、副腎皮質ステロイド薬が使用されます。
経過も様々であり、原因や、治療開始時期、治療前の腎機能などの影響を受けます。急性の場合は、約60%が完全に回復すると言われますが、約30%は腎機能低下が残存し、約10%は腎代替療法 (透析療法) が必要になります。したがって、新たな薬剤の開始後は、定期的に血液検査による腎機能の推移をみることが重要です。

  • 8.薬剤性腎障害

薬剤性腎障害は、薬剤の投与により新たに発症した腎障害、あるいは既に存在した腎障害がさらに悪化した状態とされます。主な病態として、中毒性腎障害や過敏性腎障害、腎血流障害があります。中毒性腎障害では、腎機能低下がある場合などに腎排泄性の薬剤の排泄が遅延し、血中濃度が上昇して中毒性に腎臓の細胞(主に尿細管細胞)を障害します。予防として薬剤の投与前に腎機能や脱水などの状態の確認が必要です。過敏性腎障害では、薬剤の投与量や投与期間に関係なく薬剤に対するアレルギー機序で発症します。様々な臨床症状(発熱や皮疹など)と尿異常を伴い急性に腎障害が発症したり、あるいは慢性に腎機能低下が進行したりすることもあります。腎血流障害では、鎮痛薬などの影響で腎血流が低下することにより、細胞の障害による腎機能低下が起こります。いずれの薬剤性腎障害においても治療は原因となる薬剤を可能な限り早期に中止あるいは減量することが重要です。