腎臓の病気について調べる

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7.治療

  • 1.塩分制限

血圧の上昇・高血圧は、慢性腎臓病の発症・進行のみならず、脳卒中・心筋梗塞・うっ血性心不全などの循環器系疾患の最大の危険因子です。高血圧の発症には、日々の生活習慣が深く関与しており、塩分の摂り過ぎが血圧上昇の一因となっていることや、高血圧の予防や治療には、塩分制限が重要であることが広く知られています。
農耕が始まる以前の旧石器時代(狩猟・採集生活)のヒトの食事には、食塩がほとんど含まれていなかったことから、ヒトは、非常に少ない食塩の摂取(1日1.0 g未満)に適応した身体の仕組みを獲得したと考えられています。実際、現在も、狩猟・採集生活を行っており、食塩摂取量 が、1日1.0 g未満である南米のヤノマモ族は、収縮期血圧が100 mmHg未満と低く、高血圧のヒトはみられません。さらに、我々にみられる加齢に伴う血圧の上昇もみられません。よって、農耕に伴う生活習慣の変化が、保存のためや調理方法の多様化による食品への食塩の添加量の増加を来たし、血圧の上昇・高血圧の発症を引き起こしたと考えられています。特に、食塩(塩化ナトリウム)に含まれるナトリウムは、体液量の調節に深く関与しており、ナトリウムの体内の蓄積が、体液量の増加・血圧の上昇を来すことが知られています。実際、ナトリウムの摂取を制限すると血圧が低下(正常血圧例 0.4 mmHg; 高血圧例 4mmHg)が認められ、塩分制限の血圧低下効果は、我国からの研究を含め、多数の研究で証明されています。
以上のことから、日本高血圧学会は、高血圧の治療に塩分制限が重要であり、高血圧の方には、1日6.0 g未満の食塩の摂取制限を推奨しています。また、血圧が正常の方においても、塩分制限は、高血圧の発症予防のために意義があると言われています。よって、慢性腎臓病の方は、血圧が正常であっても、循環器疾患や腎不全の危険性が高いことが知られており、これらの疾患の発症予防のために、血圧の値にかかわらず、塩分制限(1日食塩摂取量6.0 g未満)をお勧めいたします。
ナトリウムの体内の蓄積は、血圧上昇とは別に、心臓や血管への悪影響(血圧への影響を除外・補正しても、循環器系疾患の危険性が高い)を有していることや、腎臓結石、骨粗鬆症、喘息、アレルギー、自己免疫性疾患、悪性腫瘍の発症に関与していることが、最近の研究で明らかになりつつあり、これら点からも、塩分制限は重要であると考えます。
また、カリウムの摂取が、体内のナトリウムの尿中への排泄を促進することが知られており、カリウムが多く含まれている野菜・果物の摂取が、血圧をさげ、慢性腎臓病の発症を予防したことが確認されています。さらに、食塩から、カリウムを含んだ代用塩(ナトリウム:カリウム 3:1)の変更が、脳血管障害の再発を予防したことも報告されています。
我々のほとんどは、必要量をはるかに超える食塩(1日10数gの食塩)を摂取しており、塩分制限による健康障害は起きないと言われています。しかし、慢性腎臓病で治療中の方は、塩分制限の方法等について、主治医の先生にご相談ください。野菜や果物の摂取、代用塩の使用に関しても、治療の状況によって、有害になることがありますので、必ず、主治医の先生にご相談ください。

  • 2.たんぱく制限

たんぱく質制限食は、主に中等度から重度の CKD 患者さんに対する食事療法として推奨されています。CKD患者さんにおいてたんぱく質制限を実施する場合には、糖質や脂質の摂取が不十分で必要エネルギー確保されないとたんぱく質利用効率が低下します。つまり、効率の良いタンパク質代謝を維持するためには、エネルギーの確保に十分に注意することが重要です。窒素はたんぱく質に多く含まれ、重量の約16%を占めます。1日の窒素の摂取量と排泄量の関係を見たものを窒素出納(窒素バランス)と言います。窒素出納は、健常成人の方では窒素の排泄量と摂取量は等しくなりますが、体たんぱく質分解が優位なときは負となり,体たんぱく質合成が優位な場合は正となります。エネルギー不足は、たんぱく質利用効率を低下させ(窒素出納は負)、エネルギー摂取が増加すると窒素出納は改善されます。また高齢者の方では、エネルギー不足により、サルコペニアやフレイルの発症、動脈硬化の進展、骨塩量低下などのリスクがあります。また、腎臓病患者さんにともなう低栄養は「protein-energy wasting」と呼ばれます。とくに厳格なたんぱく質制限では、この問題が重要となります。

  • 3.高血圧治療

腎臓は、塩分・水分の排出により体液量を調節したり、血圧を上昇させるホルモンを制御したりしています。腎臓病では、これらのコントロールがうまくいかなくなり高血圧が生じます。高血圧に伴い腎臓は更にダメージを受け、ダメージをうけた腎臓はさらに血圧を上昇させるという負の悪循環に陥り、病気は悪化していきます。さらに高血圧は、脳卒中や心臓病を引き起こすリスクも上昇させ健康寿命を脅かします。そのため、腎臓病において血圧管理はとても重要です。降圧薬には多くの種類がありますが、蛋白尿を認める腎臓病ではレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬という薬剤を中心に治療します。理由としては、蛋白尿が持続することで腎機能は更に悪化しやすくなること、RAS阻害薬は尿蛋白を減らす作用を併せもち、腎保護効果を発揮するからです。一方、蛋白尿を認めない腎臓病では、カルシウム拮抗薬や利尿薬といった降圧薬も使用されます。また、血圧は季節性に変動し、夏場は下がりやすくなります。特に、脱水があるとRAS阻害薬や利尿薬は効き目が強く出すぎることがあるため、注意が必要です。したがって、汗をかいて脱水を起こしやすい夏場には、降圧薬を減らす場合もあります。

  • 4.ステロイド

ステロイド薬は、抗炎症作用、免疫抑制作用を有することから、多くの腎疾患(ネフローゼ症候群・糸球体腎炎など)に投与されます。それぞれの疾患や重症度の違いに応じて、ステロイド薬を点滴で投与したり(ステロイドパルス療法)、内服で投与します。
一方で、ステロイド薬を投与する際には、副作用に注意が必要です。ステロイド薬の投与量や投与期間によって副作用発現頻度と時期は異なりますが、一般的な副作用としては、感染症(細菌・ウイルス・真菌、虫歯やにきびの悪化など)、高血糖、高血圧、骨粗しょう症、消化性潰瘍、脂質異常症、精神症状、眼科的合併症(白内障・緑内障)、肥満、満月様顔貌などがあげられます。投与前に眼科や歯科を受診したり、予防薬を投与したりします。
また、多量のステロイド薬を長期間投与した場合、副腎は萎縮して機能不全におちいる可能性があり、ステロイド薬を急に中止すると、低血糖・ショック・下痢・発熱などの生命に関わる症状が出る可能性があり注意が必要です。

  • 5.免疫抑制薬

特にネフローゼ症候群や糸球体腎炎・血管炎のような腎臓病患者さんで、過剰に活性化している免疫反応を抑える薬です。副腎皮質ステロイド薬のみで効果が乏しい場合、副作用や併存症のため副腎皮質ステロイド薬が使えない場合、もしくは減量や中止が望ましい場合などに使用されることが多い薬です。病気の種類に応じて、下記のような免疫抑制薬が使用されています。

1)シクロホスファミド
抗体を作り出すBリンパ球や、炎症を引き起こす白血球の核酸合成を阻害することで、その機能と増殖を抑制します。主に炎症が激しい時期の初期治療に用いられます。内服薬の方が感染症の発症が多いことが明らかとなり、近年は点滴での投与が多くなってきました。
【対象となる疾患】1. ループス腎炎 2. 血管炎(ANCA関連血管炎、抗糸球体基底膜腎炎、IgA血管炎) 3. ネフローゼ症候群(副腎皮質ステロイド薬のみでは治療効果が不充分の場合)
【副作用】骨髄抑制による血球(白血球、貧血、血小板)の減少、出血性膀胱炎、胃腸症状、性腺抑制、重篤な感染症または尿路上皮がんのリスク因子などを認めることがあります。

2)ミコフェノール酸モフェチル
細胞の核酸合成を阻害しますが、免疫を担当するリンパ球の増殖を選択的に抑制する内服薬です。初期治療から寛解維持期まで用いられます。
【対象となる疾患】 1. ループス腎炎 2. 保険適用ではありませんが血管炎や難治性ネフローゼに用いることもあります。
【副作用】骨髄抑制、重度の下痢、肝機能障害、感染症などを認めることがあります。

3)アザチオプリン
白血球のDNA合成を阻害する内服薬です。初期治療終了後の寛解維持期に用いられる内服薬です。患者さんの遺伝子型(NUDT15遺伝子)によっては重度の白血球減少と脱毛のリスクが増加するため、治療前に遺伝子検査が推奨されています。
【対象となる疾患】1. ループス腎炎 2. 血管炎(ANCA関連血管炎、抗糸球体基底膜腎炎、IgA血管炎) 
【副作用】骨髄抑制、肝機能障害、発熱・発疹、口内炎・舌炎、脱毛、間質性肺炎、感染症などを認めることがあります。

4)ミゾリビン
細胞の核酸合成を阻害する内服薬です。免疫を担当するリンパ球だけでなく、他の白血球にも作用します。副腎皮質ステロイドと併用します。
【対象となる疾患】1. ステロイド抵抗性の難治性ネフローゼ症候群 2. 副腎皮質ステロイドのみでは治療困難なループス腎炎
【副作用】骨髄抑制、肝障害、消化性潰瘍、間質性肺炎、感染症などを認めることがあります。

5)シクロスポリン
Tリンパ球の活性を抑制する内服薬で、カルシニューリン阻害剤と呼ばれています。副腎皮質ステロイドのみでは治療困難な難治性ネフローゼ症候群に用いられます。血中濃度が高い場合や長期投与の場合には、腎臓の毛細血管内が狭くなり、腎症障害を起こすことがありますので、薬剤の血中濃度を測定することが大切です。食後に服用すると効果が落ちるため食前に服用します。また、グレープフルーツジュースは本薬の血中濃度を上昇させるため、内服時に避ける必要があります。
【対象となる疾患】1. 難治性ネフローゼ症候群(頻回再発型又はステロイド依存性)
【副作用】腎障害、高血圧、多毛、神経障害、肝障害などを認めることがあります。

6)タクロリムス
シクロスポリンと似た働き(カルシニューリン阻害剤)をもつ薬です。シクロスポリンと同じく、内服中はグレープフルーツジュースを避け、本薬剤の血中濃度測定が必要です。
【対象となる疾患】1. 副腎皮質ステロイドのみでは治療困難なループス腎炎
【副作用】腎障害、心筋障害、神経障害、血球減少、高血糖などを認めることがあります。

7)ヒドロキシクロロキン
もともとはマラリアに対する内服薬でしたが、ループス腎炎の原因である全身性エリテマトーデス患者さんにも用いられます。他の免疫抑制薬と異なり、過度の免疫抑制を起こさず、活性化した免疫を調節する働きがあります。炎症を抑える他に、血栓症や感染症リスクのリスク低下、コレステロールや血糖上昇の抑制、腎障害の予防など副次的な効果もあります。まれではあるものの網膜症が生じることがあるため、定期的な眼科診察が必要です。
【対象となる疾患】1. 全身性エリテマトーデス(ループス腎炎を含む)
【副作用】網膜症、薬疹、低血糖などを認めることがあります。

8)リツキシマブ
病気の原因となる抗体をつくりだすBリンパ球の表面にあるCD20というタンパクに結合し、細胞を体内から除去する点滴の生物製剤です。初期治療から寛解維持期まで用いられますが、病因以外の抗体も低下するため、肝炎、帯状疱疹などのウイルス感染症に注意が必要です。
【対象となる疾患】1. 副腎皮質ステロイドや他の免疫抑制剤で治療困難なANCA関連血管炎 2. 小児期発症の難治性ネフローゼ症候群(頻回再発型又はステロイド依存性)
【副作用】点滴時の急性反応(発熱、悪寒、頭痛など)、骨髄抑制、肝機能障害、感染症、間質性肺炎、進行性多巣性白質脳症(PML)、悪性新生物などを認めることがあります。

9)ベリムマブ
Bリンパ球を活性化させる因子の働きを阻害し、抗体産生を低下させる生物製剤です。リツキシマブと異なり、細胞は体内から除去されません。点滴薬、皮下注射薬(自己注射)として用います。初期治療から寛解維持期まで用いられますが、病因以外の抗体も低下するため、肝炎、帯状疱疹などのウイルス感染症に注意が必要です。
【対象となる疾患】1. 副腎皮質ステロイドや他の免疫抑制薬で治療困難な全身性エリテマトーデス(ループス腎炎を含む)
【副作用】点滴時の急性反応(発熱、悪寒、頭痛など)、感染症、間質性肺炎、進行性多巣性白質脳症(PML)などを認めることがあります。

  • 6.赤血球造血刺激因子製剤

造血を促すホルモンであるエリスロポエチン(EPO)は主に腎臓から産生されています。よって腎臓の機能が低下するとEPOを産生する力も低下し、貧血になってしまいます。この貧血を腎性貧血と呼びますが、この貧血を治療するために赤血球造血刺激因子(ESA)が用いられます。ESAの歴史は古く、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)として我が国では1990年から臨床使用され、その有効性と安全性は確立しています。ESA製剤は注射製剤で皮下注射もしくは静脈注射されます。現在は短時間作用型(半減期が短い)と長時間作用型(半減期が長い)ESAが販売されており、患者さんの状態に合わせて選択されています。

  • 7.HIF-PH阻害薬

DNAに結合して遺伝子の発現を調整する因子を転写因子と呼びますが、低酸素誘導因子(HIF)は、生体内が低酸素の環境になると応答する転写因子です。HIFは正常の酸素状態ではプロリン水酸化酵素(PHD)の働きで瞬時に分解されますが、低酸素状態になるとPHDの活性化が低下してHIFが安定化して、DNAに結合できるようになります。貧血になると、酸素が十分運搬されず、低酸素環境となりますので、HIFの発現が安定して活性が保たれます。HIFの働きにより、腎臓などで産生される造血ホルモン(エリスロポエチン:EPO)が産生されるだけでなく、食事や薬に含まれる鉄分の腸吸収が増加したり、生体内に貯蔵された鉄を再利用させたりして、貧血を改善する作用があります。腎機能が悪い方はEPOの産生が相対的に低下して、腎性貧血になりますが、HIF-PH阻害薬は、PHDの活性を阻害して恒常的にHIFを安定化させることでEPOの産生や鉄の利用率を高める腎性貧血治療薬です。

  • 8.CKD対策のチーム医療

慢性腎臓病(CKD)の診療には、ご自分の腎臓の状態に合った生活習慣の遵守、食事療法、薬物療法を長い期間にわたって取り組むことが大切です。CKDの患者さんやご家族が診療に取り組んでいただくために、医師の他に保健師や看護師、管理栄養士、薬剤師など多様な職種がチーム医療としてサポ―トいたします。具体的には、血液や尿検査の結果からどんな情報が得られるかを知っていただき、日常の生活で適正な体重や血圧を維持し、適度な運動や感染予防に取り組む方法を共に考えていきます。食事面では各自の状態に合った適切な塩分やエネルギー、たんぱく質が摂取できるよう具体的にご案内します。腎臓病では数多くの薬剤を服用しますが、それぞれの薬剤の効果と注意点を聞いて理解を深めることで、安全かつ確実に効果をもたらすことができます。
チーム医療では各職種がその特性を活かし、互いに連携しながら患者さんやご家族を支援します。全国では腎臓病療養指導士の資格を有する医療スタッフがさまざまな医療現場で活躍しており、チーム医療を推進しています。ぜひ、お近くの医療機関の医療スタッフにご相談してみてください。これからのCKD診療を共に歩む力になってくれます。

  • 9.腎臓病療養指導士の役割

腎臓病療養指導士とは、CKDの療養指導に関する職種横断的な基本知識と技能を有する医療スタッフに与えられる資格です。対象は看護職(看護師・保健師)、管理栄養士、薬剤師の3職種です。CKD療養指導のエキスパートとして、CKDチーム医療の中心を担い、生活指導、栄養指導、服薬指導を通じて、個々の患者さんが、CKDの具体的な治療目標と正しい生活習慣を遵守、継続的できるよう、セルフマネジメント支援を行ってゆくことが最も重要な役割となります。そのほか、他施設との医療連携、地域のCKD対策にも積極的に関与し、CKDの診療水準の向上を目指す役割も期待されています。本制度は、日本腎臓病協会の事業の一つとして運営されており、認定は日本腎臓病協会が行いますが、実際の運営は日本腎臓学会、日本腎不全看護学会、日本栄養士会、日本腎臓病薬物療法学会から派遣された委員が協力して行っています。