キャリアプラン
三島 英換 先生-留学体験記
名前 :三島英換 Eikan Mishima
留学タイミング:卒後13年目、学位取得後7年目
留学先(国):ヘルムホルツセンター・ミュンヘン(ドイツ)へ研究留学
留学中の研究領域・テーマ:フェロトーシス細胞死の制御機構について
―留学を希望するまで、なぜ留学を望んだか
大学院卒業後は漠然と海外留学をしたいという漠然とした希望だけは持っていました。しかし、具体的な動きは示さずに卒業後も市中病院や大学での臨床と研究を続けていました。そんな中、フェロトーシスという制御性細胞死の一種に大きな興味を持ち、このテーマをもっと研究したいという思いが出て、実際の留学を考える段に進みました。
―留学先を決定するまで、どうやって決めたのか
留学先としてはフェロトーシスを主に研究しているラボを留学先として探し、当初はアメリカのラボを考えていたものの、ASN等の国際学会に参加した際に情報を集める中で現在のドイツのラボを薦める意見をいただきアプライすることになりました。コネクションがある研究者の方を通じてボスとコンタクトを取っていただき、Web面接を経て留学受け入れとなりました。なお、コロナ下のため事前のラボ見学や下見もなく直接の渡独と留学開始でした。
自分のように卒後13年目での留学はやや遅いタイミングかと思いますが、自分で研究をある程度研究をマネージできるスキルを習得してからの留学は、限られた留学期間に効率よく研究を進める上ではメリットになります。注意点としては、日本の臨床講座での助教は、実質は医員の延長やポスドクのような立ち場であることも多いかと思いますが、海外では助教に相当するAssistant professorは自分のラボを主宰するPrincipal investigator(PI)を意味するので、日本で助教の立場を持っていながらポスドクとして留学をアプライすることは、日本でのシステムを知らない海外の先生にとっては奇異にみられる可能性があることには注意をする必要があります。また施設によっては卒後年数や学位取得後年数によって雇用のための最低賃金が設定されているケースもあるため、卒後の年数が経ってからの留学のアプライだとラボとして支払う必要がある人件費が高くなるため、採用してもらえるか考慮してもらう際のデメリットになる可能性はあります。
―留学するまで、何が必要か、何を準備すべきか
職場、医局や家族にいずれ留学する希望があることをそれとなく常々話しておくことは大事です。また、留学助成金やフェローシップ等を得るためにも、症例報告等でもよいので論文をコンスタントに出しておいて履歴書(CV)の業績を増やしておくことも大事です。受け入れボスにとって見ず知らずの外国人の留学生を採用するかの良し悪しの判断には、結局は論文業績があるかないかは大きなファクターになります。
―留学してから
日本で見つけていたビタミンKとフェロトーシスに関する知見が偶然にも留学先のテーマにはまり、現在競争が激しいフェロトーシス研究領域の中で成果として報告がすることができました(Mishima et al, Nature 2022; 608: 778)。ただし、この研究は、留学先での人的なコネクションやコラボレーションが上手くマッチした結果としてスピーディーに研究がまとまったものであり、もし海外留学をせず日本国内でやっていても論文化の前にきっと別グループに抜かされていたはずです。
―キャリアプランとしての海外留学のメリット
何より自分がやりたい研究に専念できることです。また、研究留学であれば日本で臨床医として働いているときよりも家族との時間は増えるケースが多いです。
―留学に際して、腎臓領域の医師/腎臓学会会員でよかったこと
臨床医は腎臓病を診ている時には、電解質異常に代表されるように常に生体の恒常性とその破綻と代償による病態の関わりについて考えているはずです。この思考回路は細胞や個体レベルでの研究する上でも役に立ちます。全身の臓器への影響を与えうる腎臓を軸とした臓器連関を知っていることは、たとえ腎臓以外の研究をする際にもきっと役に立つはずです。
―海外留学を目指す先生方へのメッセージ
留学はカリキュラムの決まった初期研修とは異なり決まったルートはありません。つかえるコネクションを全て使って自分と家族にとっての最適な選択肢を探すとよいかと思います。