専門医制度

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2023(R5)年度 腎臓専門医更新のためのセルフトレーニングの解答と解説

腎臓専門医の皆様へ(2024年1月25日付)
昨年11/10付で掲載いたしました2023(R5)年度セルフトレーニング問題の正解と解説を掲載いたします。
採点結果は3月下旬頃(遅れる場合もございます)に「郵送」いたします。
海外から応募の先生はメールにてご連絡いたします。
ご不明な点がありましたら,担当の西村(nishimura@jsn.or.jp)までご連絡下さい。
※手数料2,000円はいかなる場合も返金出来かねますこともご了承下さい。

教育・専門医制度委員会
委員長:鈴木 祐介
委員:門川俊明、和田健彦、田中哲洋
出題者(五十音順):赤井靖宏、旭浩一、石本卓嗣、板橋美津世、大橋温、上條祐司、木村秀樹、小松康宏、今田恒夫、齋藤修、志水英明、杉本俊郎、谷山佳弘、長浜正彦、西慎一、西尾妙織、花岡一成、古市賢吾、村越真紀、安田日出夫

解答と解説
(1)

顕微鏡的多発血管炎の寛解導入治療として保険適用となっているのはどれか。
解答:b

1 リツキシマブ
2 アバコパン
3 メトトレキサート
4 ミコフェノール酸モフェチル
5 シクロホスファミド
a (1,2,3) b (1,2,5) c (1,4,5) d (2,3,4) e (3,4,5)

解説
ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023が改訂された。アバコパン(C5a受容体拮抗薬)は2022年より我が国で保険適用になっており、今回のガイドラインで初めて明記された。MPA、GPAにおける寛解導入治療では、シクロホスファミド(CY)・リツキシマブ(RTX)が使用可能であれば、CYまたはRTXに加え、ステロイド(GC)またはアバコパンが第一選択となった。CY・RTXが使用不可である場合、重症臓器病変がなく腎機能障害が軽微である場合には、GCとメトトレキサート(MTX)、またはGCとミコフェノール酸モフェチル(MMF)が選択されるが、我が国ではMTX、MMFは保険収載されていない。参考文献 ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023


(2)

常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患の原因遺伝子はどれか。
解答:a

1 REN
2 MUC1
3 UMOD
4 GANAB
5 NPHP3
a (1,2,3) b (1,2,5) c (1,4,5) d (2,3,4) e (3,4,5)

解説
常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(ADTKD)は比較的若年で検尿異常がない腎機能低下症例で、顕性遺伝の家族歴を持つ症例の場合に疑う疾患である。現在のところ、UMOD、REN、HNF1B、MUC1、SEC61A、DNAJB11、ALG5の7遺伝子が報告されている。GANABはADPKD、NPHP3はネフロン癆の原因遺伝子である。したがって正解はa(1,2,3)


(3)

C3腎症の病態として正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:c

a 電子伝達系異常
b 補体古典経路異常
c 補体第二経路異常
d ポリオール経路異常
e 補体レクチン経路異常

解説
免疫グロブリンの沈着や古典的経路の因子(C1q、C4)の沈着を伴わずにC3のみの沈着を認める場合、C3腎症と呼称する。歴史的には病理上、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の中でtype2 MPGNがdense deposit disease (DDD)として補体制御因子の異常によることが報告された。その後、type1とtype3の中で免疫グロブリンの沈着を伴わないものをC3腎炎と考え、DDDとC3腎炎を合わせてC3腎症として扱うようになった。Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO)カンファレンスの報告では、免疫グロブリンの沈着と比較しC3の沈着が2段階以上の蛍光強度を示す場合をC3腎症として取り扱うと定義されており、より広範囲にC3腎症を捉えるようになりつつある。現在、C3腎症は補体第二経路(alternative pathway; AP) の異常活性化を伴う糸球体腎炎と捉えられている。


(4)

CKDステージG3b以降の患者において、腎機能悪化や死亡リスクの抑制の観点から推奨されている血清カリウム濃度のコントロール目標値はどれか。1つ選べ。
解答:c

a 3.0mEq/L以上 5.0mEq/L未満
b 3.5mEq/L以上 5.5mEq/L未満
c 4.0mEq/L以上 5.5mEq/L未満
d 4.0mEq/L以上 6.0mEq/L未満
e 4.5mEq/L以上 6.0mEq/L未満

解説
進行したCKD患者における血清カリウム濃度のコントロールについて問う問題である。CKDステージG3b以降の患者において、腎機能悪化や死亡リスク抑制の観点から、4.0mEq/L以上 5.5mEq/L未満が推奨されている。参考文献:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023


(5)

CKDにおける代謝性アシドーシスで正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:d

a アンモニア排泄亢進が一因である.
b CKDステージG4ではほぼ全例が合併する.
c 酸の蓄積は尿中クエン酸排泄と正相関する.
d 高カリウム血症がない場合は野菜や果物の摂取が推奨される.
e 明らかなアシドーシスが惹起されるまではCKD進展に影響はない.

解説
CKDでの代謝性アシドーシスについて問うている.
a × アンモニア排泄低下が一因である。
b × 罹患率は40%程度である。
c × 軽度のCKDから逆相関が確認されている。
d ○ 野菜や果物摂取はアルカリ摂取を増加させる。
e × 明らかな代謝性アシドーシスが惹起される前から酸の蓄積が起こり、CKD進展に悪影響を及ぼすとされる。
参考文献
1. Raphael KL. J Am Soc Nephrol. 2018 PMID: 29030467
2. Goraya N, et al. Kidney Int. 2019 PMID: 30846270
3. Goraya N, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2013 PMID: 23393104
4. Raphael KL,et al. J Am Soc Nephrol. 2017 PMID:28385806


(6)

54歳の男性。ネフローゼ症候群を発症しステロイド治療を開始して現在4カ月目である。下腿浮腫が軽度あり、eGFR 50ml/min/1.73m2、尿蛋白量 0.6g/日、尿沈渣赤血球 10-15/hpfの状態である。
現在の状態は、ネフローゼ症候群の治療効果判定基準、CKDステージとしてどれに相当するか。2つ選べ。
解答:bとe

a 無効
b 不完全寛解Ⅰ型
c 不完全寛解Ⅱ型
d CKDステージG3aA2
e CKDステージG3aA3

解説
エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020、第1章ページ2にある表2:ネフローゼ症候群の治療効果判定基準に基づき問題を作成した。本例は、0.6g/日での尿蛋白量であり、0.3g/日≦尿蛋白<1.0g/日のレベルであり、不完全寛解Ⅰ型に相当する。1.0g/日≦尿蛋白<3.5g/日が不完全寛解Ⅱ型、尿蛋白≧3.5g/日が無効の判定になる。因みに、CKDステージとしてはG3aA3になる。参考文献 エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020


(7)

透析患者の悪性腫瘍について正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:bとe

a 女性では消化器系悪性腫瘍が最も多い。
b 男性では腎泌尿器系悪性腫瘍が最も多い。
c 悪性腫瘍は透析患者の死因第2位である。
d 透析患者への免疫チェックポイント阻害薬投与は禁忌である。
e 維持透析患者ではシスプラチン投与後の透析は推奨されていない。

解説
「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022」が発刊され悪性腫瘍治療と腎障害に関する知識のアップデートが望まれている。特に透析患者においては悪性腫瘍の薬物治療に精通した医師は腎臓専門医以外は希有であることからこの分野の知識は重要になる。透析患者の死因で悪性腫瘍は心不全、感染症に次いで第3位である。2020年の日本透析医学会統計調査では男性罹患率6.0%、女性罹患率4.5%と男性患者に多く、男性透析患者では腎泌尿器系悪性腫瘍が43.8%と最も多かった。女性透析患者では乳腺・内分泌系が25.8%で消化器系25.4%を上回っているのが特徴的である。維持透析患者の悪性腫瘍治療に関しての検証も多く成されており、シスプラチンに関しては組織移行性が高く、投与後の血液透析は無効であるとの報告が主流である。また、透析患者の悪性腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬投与の検討も多く成されており、腎細胞癌などでは投与群が予後良好であったとの報告もあり、一律禁忌になっているわけではない。参考文献 がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022


(8)

薬剤誘発性高血圧を生じる頻度が少ないのはどれか。1つ選べ。
解答:d

a 芍薬甘草湯
b シクロスポリン
c 抗VEGF抗体医薬
d プロトンポンプ阻害薬
e 非ステロイド性抗炎症薬

解説
薬剤誘発性高血圧の知識を問う。芍薬甘草湯に含まれるグリチルリチンは、ミネラルコルチコイド受容体を活性化することにより血圧を上昇させる。シクロスポリン、抗VEGF抗体医薬は血管内皮障害による血管拡張抑制のため血圧が上昇する。非ステロイド性抗炎症薬は腎プロスタグランジン産生を抑制し、水・ナトリウム貯留、血管収縮により血圧を上昇させる。


(9)

一次性ネフローゼ症候群において、正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:aとc

a ミコフェノール酸モフェチルは妊娠前に中止する。
b 新型コロナウイルスワクチン接種後に肉眼的血尿を呈することが多い。
c 巣状分節性糸球体硬化症のうち、collapsing variantの腎予後は不良である。
d 一次性膜性腎症の原因自己抗体として抗ネフリン抗体が報告された。
e 一次性膜性腎症の治療薬としてベリムマブが推奨されている。

解説
1. ○ ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は催奇形性があり妊娠前に中止すべきである。
2. × IgA腎症症例において新型コロナウイルスワクチン接種後に肉眼的血尿を呈することがあるが、一次性ネフローゼ症候群患者において特に肉眼的血尿が多いとの報告はない。
3. ○ 巣状分節性糸球体硬化では病理学的にコロンビア分類が提唱されており、tip variantの予後は比較的良好であるが、collapsing variantの腎予後は不良である。
4. × 抗ネフリン抗体の関与が報告されたのは微小変化型ネフローゼ症候群である。
5. × 全身性エリテマトーデスに対する治療薬であり、ループス腎炎の寛解導入期におけるエビデンスが示されているが、現時点では膜性腎症の治療におけるエビデンスは希少であり、推奨には至っていない。


(10)

クリオグロブリン血症で正しいのはどれか。
解答:c

1 クリオグロブリンは血清を37℃に加温すると凝集する異常免疫グログリンである。
2 I型では皮膚症状(先端チアノーゼ、網状皮斑、潰瘍など)が多い。
3 Ⅱ型クリオグロブリンは単クローン性免疫グロブリンと多クローン性免疫グロブリンからなる。
4 予後はI型が最も悪い。
5 血清補体価が上昇している時に疑う
a (1,2) b (1,5) c (2,3) d (3,4) e (4,5)

解説
クリオグロブリン血症による腎障害は約半数が無症候性の血尿・蛋白尿で、約20%がネフローゼ症候群、30%が急性腎炎症候を呈する。腎炎の鑑別において、低補体血症を認めた際に鑑別すべき疾患である。クリオグロブリンは血清を4℃以下にすると凝集し、37℃に加温すると溶解する異常免疫グログリンである。I型は単クローン性免疫グロブリンで、Ig同士の結合による血液の過粘稠が原因で血管閉塞が生じ、皮膚症状(先端チアノーゼ、網状皮斑、潰瘍など)や腎機能障害を呈する。多発性骨髄腫やB細胞性リンパ増殖性疾患(慢性リンパ性白血病など)でみられるⅡ型は単クローン性と多クローン性免疫グロブリン、Ⅲ型は多クローン性免疫グロブリンであり、Ⅱ型とⅢ型はRF因子陽性となる、また補体を活性化させることによる小血管炎で、紫斑、関節痛、腎機能障害、神経症状および肝機能障害などを来す。Ⅱ型とⅢ型はRF因子陽性C型肝炎に関連するものが多くその他感染症(B型肝炎ウイルスおよびHIV)、膠原病(シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ)が関連するクリオグロブリン血症では原因疾患の治療が優先されるため、二次性の原因を検索することが重要である。生命予後はI型の方が混合型(II/III型)より良好である。
参考文献
1. medicina 2017 4月号. 医学書院. P361
2. 種田積子. クリオグロブリン血症性糸球体腎炎. 腎生検病理アトラス改訂版. 178 - 181. 2017.
3. Quartuccio L, et al. Rheumatology(Oxford), 53(12): 2209-2213, 2014


(11)

原尿の希釈に関与するセグメントはどれか。
解答:d

1 近位尿細管
2 ヘンレ下行脚
3 ヘンレ上行脚
4 遠位曲尿細管
5 皮質集合管
a (1,2) b (1,5) c (2,3) d (3,4) e (4,5)

解説
ヘンレの上行脚と遠位曲尿細管ではNaClが再吸収されるが、水の再吸収は原則行われない。
結果として原尿が希釈されることになるので、この部位は希釈セグメントとも呼ばれる。希釈セグメントでは、原尿から自由水を産生し尿中に排泄する。よって、同部位の障害は水排泄低下により低ナトリウム血症の発症につながる。


(12)

以下の浸透圧物質で、血中に存在する際に張度を形成しないものはどれか。
解答:d

1 電解質
2
3 尿素
4 アルブミン
5 ソルビトール
a (1,2) b (1,5) c (2,3) d (3,4) e (4,5)

解説
張度は細胞膜を通過できない有効浸透圧物質の濃度のみを反映するため、膠質浸透圧を形成する蛋白成分、尿素は張度を形成しない。血糖や外因性のマニトール、グリシン、ソルビトール、マルトースは全て張度を形成するため、高濃度になると細胞外への自由水移動を促し、低Na血症を引きおこす。


(13)

正しいものはどれか。
解答:b

1 我が国の高血圧有病者は4300万人である。
2 高血圧治療中の患者で適切な血圧管理がなされているのは約8割である。
3 脳性ナトリウム利尿ペプチドは主に心房から分泌される。
4 ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドを増やす作用がある。
5 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬より降圧効果が強い。
a (1,2) b (1,5) c (2,3) d (3,4) e (4,5)

解説
高血圧は有病率が高く、心血管疾患死亡の危険因子であること、それにもかかわらずコントロールが不良なことより、降圧効果の強い降圧薬の登場が待たれていた。最近、日常臨床で使用可能となったサクビトリルバルサルタンは降圧ホルモンである内因性ナトリウム利尿ペプチドを増加させ、昇圧ホルモンであるアンジオテンシンIIを抑制することで、より強い降圧作用を有するとされており、作問した。
1. は正答である。
2. 高血圧治療中の患者の約半数しか血圧管理が出来ておらず、血圧管理は良好とはいえないため、誤答である。
3. 脳性ナトリウム利尿ペプチドは77%が心室から分泌されるため、誤答である。
4. ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドを速やかに代謝するため、誤答である。
5. はメタ解析などでも証明されており、正答である。


(14)

LDLアフェレシスに保険が適用されないのはどれか。1つ選べ。
解答:e

a 糖尿病性腎症
b 閉塞性動脈硬化症
c 巣状糸球体硬化症
d 家族性高コレステロール血症
e ANCA関連急速進行性糸球体腎炎

解説
難治性高コレステロール血症に伴う重度尿蛋白症状を呈する糖尿病性腎症がLDLアフェレシスの適応となった。ANCA関連急速進行性糸球体腎炎は、血漿交換や二重ろ過血漿分離交換の適応はあるが、LDLアフェレシスの適応はない。


(15)

維持透析患者に心臓カテーテル検査を実施した。心臓カテーテル検査の前日に通常の血液透析を実施している。心臓カテーテル検査前の血清K濃度は4.0 mEq/Lだったが、検査後の血清K濃度は5.2mEq/Lであった。心電図上、高K血症を示唆する変化はなく、患者のバイタルサインも安定している。
血清K値上昇への対応として適切なのはどれか。1つ選べ。
解答:a

a 慎重な経過観察
b グルコース・インスリン療法
c 炭酸水素ナトリウムの補充
d βアゴニストの吸入療法
e 緊急透析

解説
ヨード造影剤投与後に、浸透圧効果により細胞内から細胞外にKが移動し、高K血症を呈することがある。一過性であり時間とともに細胞内にKが移動し血清K濃度は低下する。高度な高K血症であれば、グルコースインスリン療法を考慮するが、上記の症例では緊急対応は不要と考えられる。透析患者に造影剤を投与後、以前は、造影剤を除去するために臨時の透析を行う施設もあったが、現在は不要と考えられており、推奨されない。
参考文献:
1. Sirken G, et al. Am J Kidney Dis. 2004 PMID: 14750123
2. Daphnis E, et al. Nephron Clin Pract.2007 PMID: 17596722


(16)

常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD)患者の腎代替療法で正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:b

a 移植腎にも嚢胞が出現する
b 腎移植後、固有腎容積は縮小する
c 腹膜透析より血液透析の方が生命予後が良い
d 腹膜透析導入の前には、片腎摘をすべきである
e 腹膜透析において、腹膜炎発症リスクは非ADPKD患者より高い

解説
a. 移植腎に嚢胞はできない。
b. 移植後、固有腎容積は縮小するのは正しい。
c. 腹膜透析の方が血液透析よりも生命予後がよい、あるいは生存率が高いという報告があり、血液透析の方が生命予後がよいわけではない。
d. 腹腔内のスペース確保のために腎摘出を行う事があるが、必須ではない。
e. 腹膜透析におけるADPKD患者では、腹膜炎発症のリスクは非ADPKD患者と差がみられないという報告が多い。


(17)

腎臓におけるミネラルコルチコイド受容体(MR)について正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:c

a 上皮性Na+チャネル(ENaC)を活性化し、Na+排泄とK+再吸収を促進する。
b S843のリン酸化によりリガンド結合能が増強する。
c 低分子量Gタンパク質Rac1はリガンドとは独立してMRの転写活性を増強する。
d 非上皮細胞におけるMRの抑制は血管機能障害、糸球体障害、炎症、線維化をきたす。
e ステロイド型MR拮抗薬は非ステロイド型MR拮抗薬よりもMRのcofactor recruitment阻害作用が強い。

解説
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であるフィネレノンが、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病への効能を承認取得した。MRは今までも腎疾患において重要視されてきたが、今後も注目されると考えられる。
a) 上皮性Na+チャネル(ENaC)を活性化し、Na+再吸収とK+排泄を促進する。
b) MRのS843におけるリン酸化はリガンド結合能を減弱させる。カリウム負荷時にこのような現象が見られることが報告されている(Shibata S, et al. Cell Metab 2013; 18: 660-671)
d) 非上皮細胞におけるMRの活性化は血管機能障害、糸球体障害、炎症、線維化をきたす。
e) 非ステロイド型MR拮抗薬はステロイド型MR拮抗薬よりもMRのcofactor recruitment阻害作用が強い。


(18)

尿路上皮癌のリスクに基づく血尿の分類で中リスク群に該当する組み合わせはどれか。
解答:c

1 65歳男 - 尿中赤血球>25/HPF
2 45歳女 - 尿中赤血球5-10/HPF -シクロホスファミドの投与歴あり
3 55歳男 - 尿中赤血球11-25/HPF
4 55歳女 - 尿中赤血球5-10/HPF - 喫煙歴あり
5 40歳男 - 尿中赤血球11-25/HPF - 肉眼的血尿の既往あり
a (1,2) b (1,5) c (2,3) d (3,4) e (4,5)

解説
血尿診断ガイドライン2023に提示された「血尿診断アルゴリズム」についての知識を問う。尿沈渣において非糸球体性血尿が認められた場合は、尿路悪性腫瘍や結石などの泌尿器科疾患を念頭に、泌尿器科への紹介が勧められる。顕微鏡的血尿を呈する泌尿器科疾患の中で最も注意すべきは尿路上皮癌であり、上記アルゴリズムでは尿路上皮癌のリスク別に行うべき検査について提示されている。低リスク群(男<40歳/女<50歳、尿中赤血球5~10 個/HPF、危険因子*なし、のすべてを満たす)、中リスク群(男40~59歳/女50~59歳、尿中赤血球11~25個/HPF、1つ以上の危険因子*を有する、のいずれかに該当)、および高リスク群(男女とも≧60歳、尿中赤血球>25個/HPF、喫煙歴あり、肉眼的血尿の既往、のいずれかに該当)に分類し、それぞれに対して行うべき検査が提示されている。(*有害物質へのばく露、膀胱刺激症状、フェナセチンなどの鎮痛薬多用、骨盤放射線照射の既往、シクロホスファミドの投与歴、尿路への異物の長期留置)。2,3は中リスク群に、1,4,5はいずれも高リスク群に分類される。中リスク群の対応方針は「膀胱鏡検査+超音波検査(腎)+尿細胞診」、または「膀胱鏡検査を行わない場合は超音波検査(腎+膀胱)+尿細胞診」となる。参考文献 血尿診断ガイドライン2023


(19)

19歳の男性。サッカー部の練習後の夜から腰背部痛を感じて、吐き気が出現。市販の鎮痛薬を服用して経過を見ていたが、食事も摂れなくなってきてその2日後に病院に受診した。
現症:体温 37.6℃。脈拍 80/分、整。血圧 120/67mmHg。呼吸数 16/分。尿所見: 蛋白 (−)、 糖 (−)、 潜血 (−)。沈渣に赤血球 1~4/視野、白血球 1~4/視野、硝子円柱 少数/全視野。FENa 1.2%
血液学所見: 赤血球 502万、 Hb 14.2g/dL、 白血球 12,410、 血小板 20万。血液生化学所見: 総蛋白 7.2g/dL、 アルブミン 4.3g/dL、 尿素窒素 32.8mg/dL、 クレアチニン 1.62mg/dL、 尿酸 0.9mg/dL、 総ビリルビン 0.8mg/dL、 AST 26IU/L、 ALT 22IU/L、 CK 180 IU/L、LD 240IU/L(基準 176〜353)、 Na 142mEq/L、 K 4.2mEq/L、 Cl 109mEq/L。免疫血清学所見:CRP 1.24mg/dL。
この患者の病態の原因疾患について、当てはまるのはどれか。2つ選べ。
解答:aとb

a 約25%で再発する。
b 診断に造影CTが有用である。
c 透析を要する程の重症化はおよそ5%である。
d 尿中ミオグロビンが陽性となる。
e 有酸素運動が引き金となる。

解説
運動後急性腎障害(acute renal failure with severe loin pain and patchy renal ischemia after anaerobic exercise: ALPE)の症例。発症年齢は10代後半から20代が多く、9割以上が男性で、無酸素運動後3-12時間以内に腰痛を自覚して急性腎障害をきたす。およそ6割は腎性低尿酸血症を伴い、非腎性低尿酸血症患者より50 倍ALPEを発症しやすく、血清尿酸値低値はALPEを疑う大きな手掛かりとなる。
診断には、1)無酸素運動後のAKI 2)背腰痛 3)血清CKが基準値内か軽度上昇が揃えば、可能となるが、造影剤投与1日後のCTで両側腎臓に楔状の造影剤残存が見られることが特徴的である。MRI(DWI/T2WI)においても両側腎臓に楔状の高信号域が見られる。
輸液等の保存的治療で軽快する予後良好な疾患とされるが、25%の症例で血液透析が必要となる.また、再発率が26%と報告されており、無酸素運動に対する指導が重要である。


(20)

尿沈渣の所見と関連する疾患・病態の組み合わせで誤りはどれか。1つ選べ。
解答:b

a 赤血球円柱-----IgA腎症
b 硝子円柱-------体液過剰
c 卵円形脂肪体---重症ネフローゼ症候群
d デコイ細胞--------BK腎症
e ヘモジデリン円柱----発作性夜間血色素尿症

解説
尿沈査の所見から、重要な腎疾患の病態を識別することが可能である。
IgA腎症では、糸球体由来の赤血球が尿管腔に移動し、管腔で円柱を形成する。
重症ネフローゼでは、高率に卵円形脂肪体が認められ、診断の参考所見となっている。
同脂肪体は腎障害に出現する脂肪顆粒細胞の一つで、尿細管上皮細胞あるいは大食細胞から由来する。
BK腎症は、免疫抑制薬を使用している腎移植患者で発症することが多い。既感染のヒトポリオーマウイルスが活性化して、遠位尿細管上皮細胞の核に感染し、BK腎症となる。同感染細胞は、N/C 比が増大し、核がすりガラス状を呈する特徴的な細胞で、尿中へ剥離した感染細胞はデコイ細胞と呼ばれている。
発作性夜間血色素尿症では夜間に溶血発作を発症し、ヘモグロビンが尿中に排泄される。このヘモグロビンが尿細管上皮細胞で再吸収され、細胞内で分解・変性しヘモジデリンが生成される。このヘモジデリン含有の尿細管上皮細胞は、脱落して尿中に排泄され、ヘモジデリン含有細胞やヘモジデリン円柱となる。
以上より、a,c,d,eは正解であり、bが誤りである。硝子円柱は、Tamm-Horsfallムコ蛋白と少量の血漿蛋白とがゲル状に凝固沈殿したものが主成分で、健常者でも認められる。しかし、脱水状態や全身の血流障害で特に出現頻度が高いとされる。従って、体液過剰の状態では出現頻度は低いため、選択肢bは誤りである。